冷間圧接(Cold Pressure Welding)

冷間圧接(Cold Pressure Welding)とは

冷間圧接は、加熱を伴わずに金属を接合する固相接合法の一つです。金属同士を強い圧力で押し付けることで、それぞれの表面層を変形・破壊し、分子レベルでの接合を実現します。接合中の最高温度は約60〜80℃とされ、熱処理と比較してエネルギー消費は最大90%削減されます(※材料と圧力条件による)。

背景と導入の目的

冷間圧接は1950年代後半に、銅やアルミなどの導電性部材の接合ニーズから実用化されました。特に熱処理が避けられる状況、例えば高温による金属の軟化・酸化、寸法精度の低下が懸念される場合に有効です。導電部品、半導体パッケージ、マイクロ接点など、熱による性能劣化が許容されない領域で需要が拡大しています。

冷間圧接の原理と条件

接合の成立には、以下の3要素が満たされる必要があります。

  • 材料特性:展性と加工硬化性を持つ金属(例:純銅・純アルミ・銀)
  • 表面清浄性:酸化膜や油分が除去され、Ra(表面粗さ)が0.1μm以下であることが望ましい
  • 圧力条件:通常、材料降伏強さの1.5〜2倍の圧力(例:純銅で150〜200MPa)が必要

接合面の密着が生じると、局所的な塑性変形によって原子間距離が縮まり、金属結合が発生します。加熱を介さないため、結晶粒成長がなく、母材の結晶構造や特性が保持されます。

使用機材と構成

  • 専用圧接機:油圧・サーボ駆動タイプがあり、10〜500kNの押圧力に対応
  • アンビル・金型:金属面を支持するための剛性体。材質には超硬合金や工具鋼が用いられる
  • クリーン処理装置:ワイヤブラシ、超音波洗浄、アルゴン吹付けによる酸化膜除去が行われる

冷間圧接の利点(定量評価)

  • 熱影響ゼロ:HAZ(熱影響部)が形成されず、接合部の硬度変化率は5%未満
  • 高導電率維持:接合後の電気抵抗値の上昇は3%未満(純銅ワイヤー接合試験にて)
  • 接合時間の短さ:1接合あたりのプロセス時間は0.5〜2.0秒程度と高速
  • 省エネ効果:溶接法と比較してエネルギー消費が最大90%削減(例:スポット溶接比)
  • 環境負荷の低減:CO₂排出・ヒューム(溶接煙)ゼロで、作業者の安全性が高い

課題と限界

  • 材料制限:展性の低い金属(例:ステンレス、チタン、Ni基合金)は冷間圧接が困難
  • 酸化膜の影響:酸化皮膜の厚さが0.5μmを超えると接合強度が著しく低下
  • 形状制約:棒状、線状、薄板状部材への適用が主であり、複雑形状品への適用は限定的

主な適用分野と実例

  • 電子部品:ICリードフレームと銅線の接合(自動機で1時間に最大3,000接合)
  • 電線製造:通信・電力ケーブルの導体同士を中間接続(直径0.5〜5mmが主流)
  • 熱交換器:アルミパイプとフィンの高密度接合で冷却性能を最大15%向上
  • 航空宇宙:軽量・高信頼性が求められる端子接合やシールド材固定部に採用
  • 医療機器:ニッケルチタン合金(Nitinol)への非熱接合として冷間圧接が選定

安全性と作業ガイドライン

  • 熱・火花なし:火災リスクが低く、消火設備の簡素化が可能
  • 振動・騒音対策:プレス装置の緩衝制御により作業音を80dB以下に制御可能
  • 作業保護具:圧力機構の暴発に備えて、耐衝撃手袋・ゴーグル・防振マット使用が推奨

導入時のチェックポイント

  • 材料適性評価:伸び率、降伏強度、表面硬度などを事前に測定
  • 圧接パラメータ設定:押圧力・保持時間・移動速度を数値で最適化(例:銅線で150MPa×1.0秒)
  • 品質検証:接合後の引張強度、導通試験、断面観察を実施

まとめ

冷間圧接は、金属を加熱せずに高速・高強度で接合する、極めて合理的かつエネルギー効率に優れた製造プロセスです。材料選定や表面処理、圧力制御といった技術的前提がある一方で、正しく運用すれば他の溶接手法よりも高品質・低コスト・環境負荷の少ない接合が可能です。導電性を要する精密機器や、温度制約のある高度産業において、その価値は今後さらに高まっていくと見られます。

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