ワーキングモデル

製造業や設計・開発の現場でよく使われる「ワーキングモデル(Working Model)」という用語。プロトタイプやモックアップとの違いが分かりづらいという声も多く、実際の設計フローの中でどのように活用されているのか、具体的に語られることは少ないかもしれません。

本記事では、ワーキングモデルの定義・特徴・作り方から、業界ごとの実用例、3DプリンタやCAEとの関係、他モデルとの比較まで網羅的に解説します。


ワーキングモデルとは?

ワーキングモデル(Working Model)とは、製品の構造や機能、動作原理などを実際に動かして検証できる形で試作された物理モデルを指します。外観や材質の精度は重視せず、主に動作や構造のフィージビリティ(実現可能性)を検証する目的で使用されます。

  • 目的:動作・機構の検証、構造上の干渉や破損リスクの確認
  • 形態:簡易素材(アクリル、PLA樹脂、発泡材など)や3Dプリンタ出力
  • 類義語:機構モデル、動作モデル、機能モデル

設計初期段階でアイデアの実現性を「手に取れる形」で確認するため、製造コストの抑制や後戻り工数の削減に大きく貢献します。


ワーキングモデルと他モデルとの違い

設計・製品開発では以下のようなモデルが段階的に使い分けられます:

名称 目的 特徴
モックアップ 外観確認・顧客提案 動作なし・実物大が多い
ワーキングモデル 動作・機構の確認 一部動作・簡易構造を実現
プロトタイプ 製品としての総合検証 量産品に近い精度・材質
製品試作機 性能テスト・量産前試験 工法・材質・組立も最終版に準拠

ワーキングモデルは「モックアップ以上・プロトタイプ未満」の段階で活躍するモデルであり、設計者の判断や構想の実現性を、実体のある動きとして可視化します。


ワーキングモデルの主な用途

  • 構造動作の干渉確認(例:アームの回転時にフレームと接触しないか)
  • 機構の再現性チェック(例:スライド機構のスムーズさ)
  • 機械的強度の目視判断(例:負荷を加えた際のたわみ)
  • 試作会議での意見集約(社内説明・顧客提案など)

完成品で発生するような「予期せぬ設計不備」を、ワーキングモデルで早期発見することで、設計変更コストや試作やり直しを未然に防げます。


ワーキングモデルの種類と構成要素

ワーキングモデルには、目的や製作環境に応じてさまざまな形態があります。

1. フルスケールモデル

  • 実寸大で構造再現
  • 機構干渉や重さ・動作タイミングを検証
  • 例:建築模型、車両ドアの開閉モデル

2. スケールダウンモデル

  • 1/2や1/5スケールで動作を再現
  • コストとスペースの制約がある時に有効
  • 例:プレス機構の縮小模型

3. 部分構造モデル

  • 一部機構に特化して検証
  • 例:ギア連結部のみ再現

4. 材料別モデル

  • 樹脂モデル: 3Dプリンタ・アクリル・PLAなど
  • 金属モデル: 簡易CNCや手加工でアルミ加工など
  • 木材・MDFモデル: 簡易な構造確認用

材質や構成は量産を意識したものではなく、「手早く・正確に・安く」動作を確認することが第一目的となります。

業界別に見るワーキングモデルの活用事例

1. 自動車業界

  • ドア開閉機構の干渉チェック:実寸ワーキングモデルを使用
  • サスペンション構造の動作再現:1/2スケールで衝撃応答を確認
  • 効果:設計変更件数を3件→1件に削減、試作工数2週間短縮

2. 医療機器業界

  • 注射器のプランジャー動作確認に透明PLAモデルを使用
  • 外部モーターユニットとの連動動作モデルを3Dプリント+手組立で再現
  • 医療関係者による使用感ヒアリングに直接活用

3. 建築・インテリア業界

  • 可動式壁パネル、ドア・天窓の開閉検証
  • 建築系ワークショップにて実物動作の教育用教材として利用

4. 家電製品業界

  • ヒンジ構造の開閉耐久を確認する可動部モデルをPLAで出力
  • ダイヤルやスイッチの回転荷重・滑らかさを評価

このように業界を問わず、動作の「見える化」による意思決定の加速に貢献しています。


ワーキングモデルとCAE・シミュレーションの関係

設計初期の段階では、CAD+CAEで構造解析・動的応答・熱応答などを検討しますが、「理論と現実の差」を埋めるためにワーキングモデルが重要になります。

連携事例:

  • CAEによる応力集中予測 → 実モデルで破損有無を確認
  • モータートルクの理論計算 → モデルで動作時の引っかかりを再現

特に以下のような要因は、CAEでは検出しにくく、物理モデルでの再現が有効です:

  • 素材のゆがみ、変形
  • ネジ・ばねなど微小部品の反応
  • 作業者の組立手順・使い勝手

そのため、CAEによる「理論解析」と、ワーキングモデルによる「実体検証」は、互いに補完し合う関係にあります。


ワーキングモデルとプロトタイプの違い【再確認】

項目 ワーキングモデル プロトタイプ
目的 構造・機構・動作検証 量産に近い形での総合評価
製造精度 中〜低(機能優先) 高(仕上げ・素材まで忠実)
コスト 安価(1〜数万円〜) 高額(10万円〜数百万円)
製作期間 数時間〜数日 数週間〜1ヶ月以上
主な使用タイミング 構想〜基本設計 詳細設計後〜評価試験前

このように、ワーキングモデルは「設計初期段階での失敗の早期発見」に最適な手段であり、プロトタイプとは役割が異なります。

ワーキングモデルに関するよくある質問(FAQ)

Q1. ワーキングモデルとモックアップの違いは?

モックアップは「外観やサイズ確認」を目的としたダミーモデルであり、通常は動作しません。一方、ワーキングモデルは「動作・構造」の再現が主目的で、実際に一部の可動性があります。

Q2. 製作コストはどのくらいかかりますか?

3Dプリンタや手作業による簡易ワーキングモデルであれば、1体あたり5,000〜30,000円程度で製作可能です。業務用設備や精密機構を含む場合は10万円以上かかるケースもあります。

Q3. 設計者でなくてもワーキングモデルを作れますか?

可能です。設計CADデータをもとに3Dプリンタ出力し、簡単な組立手順を踏めば、非設計職の方でも扱えるモデルが増えています。実際、営業・マーケ部門での活用例も多数あります。

Q4. ワーキングモデルは知的財産の対象になりますか?

動作原理や構造が特許出願の対象となる場合があります。重要な技術が含まれるワーキングモデルを展示・説明する際には、事前の情報管理や秘密保持契約(NDA)の確認をおすすめします。


ワーキングモデル導入における課題と注意点

ワーキングモデルの導入には次のような課題もあります:

  • 目的が不明確: 検証対象を絞らず作ると評価できない
  • 過度な精度追求: モデル段階で本製品同様の精度を求めるとコスト増
  • データ未連携: CAD設計と現物のずれを比較できない

特に大企業においては、部門をまたぐ調整や製作依頼のプロセスが煩雑になることもあります。こうした場合は、社内プロトラボや専用試作部門を活用するとスムーズです。


まとめ:ワーキングモデルは“動かすことで考える”ための武器

ワーキングモデルは、単なる試作品ではなく、「動かしながら考える」「見せながら議論する」ための強力なツールです。CADやCAEでは気付けなかった問題が、物理モデルで可視化されることで早期に発見・修正され、設計の精度とスピードが大きく向上します。

導入メリットまとめ:

  • 動作確認による手戻りリスクの低減
  • プレゼン・顧客説明の納得性向上
  • 試作回数・設計期間の短縮

また、3Dプリンタや樹脂加工の普及により、導入コストも低下しており、今後ますます中小企業・個人設計者への展開が進むと予想されます。

設計の初期段階で「一度、動かしてみる」。その判断が、開発全体の成功確率を高める鍵となります。

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