電気放電加工(EDM)とは
電気放電加工(EDM:Electrical Discharge Machining)は、導電性のある材料に対して、電極とワーク(加工対象)間でスパーク放電を発生させ、その熱エネルギーで材料を溶融・蒸発させて除去する非接触加工です。切削工具で削るのではなく、微小放電を繰り返して形状を作るため、焼入れ鋼や超硬合金などの難削材でも精密加工しやすい点が大きな特徴です。
金型加工、精密部品、微細穴加工などで広く使われ、複雑形状や深い溝、鋭角部の再現にも強みがあります。一方で、加工速度や電極摩耗、表面の改質層(白層)など、品質設計上の注意点もあります。
電気放電加工が選ばれる理由
- 工具の切削抵抗がほぼないため、薄肉・細物でも変形しにくい
- 硬度が高い材料でも加工しやすく、熱処理後の追加加工に向く
- 複雑な三次元形状、深いキャビティ、微細形状の加工が得意
- 刃物が届かない内部形状・狭小部の加工に対応しやすい
電気放電加工の適用材料
原則として導電性材料が対象です。代表例は以下の通りです。
- 焼入れ鋼、工具鋼、合金鋼、ステンレス
- チタン合金、ニッケル基合金など耐熱合金
- 超硬合金(条件最適化が重要)
- 導電性セラミックス(材料・条件により適用)
非導電性のセラミックスや樹脂は通常EDMの対象外ですが、特殊工法(補助電極や導電化処理など)を用いるケースもあります。量産性や品質要求を踏まえ、他工法との比較が重要です。
電気放電加工の種類
1. 形彫り放電加工(ダイシンクEDM)
電極形状をワークへ転写する加工です。銅やグラファイト電極を用い、金型のキャビティ形状やリブ、深い凹部などの三次元加工に強みがあります。
- 得意分野:金型キャビティ、深い溝、アンダーカットに近い形状、微細リブ
- ポイント:電極設計(放電ギャップ、クリアランス)、電極摩耗の補正が品質を左右
2. ワイヤ放電加工(ワイヤEDM)
細い金属ワイヤを電極として、ワイヤの軌跡に沿って切断する加工です。板材の輪郭加工や精密スリット、パンチ・ダイの加工などに多用されます。
- 得意分野:抜き型(パンチ・ダイ)、精密輪郭、微細スリット、シャープコーナー
- ポイント:ワイヤ径、テンション、通電条件、加工液管理が面粗さと精度に影響
3. 微細穴放電加工(ドリルEDM)
細径のパイプ電極で、極小径・深穴を加工する方式です。冷却穴やノズル穴、スタート穴(ワイヤEDMの下穴)などに用いられます。
- 得意分野:極小径、深穴、高アスペクト比の穴
- ポイント:電極消耗、真直度、バリ・再凝固物の管理
基本原理と加工の流れ
- 電極とワークを加工液中で近づけ、一定のギャップを保つ
- パルス電源で放電を発生させ、局所的に材料を溶融・蒸発させる
- 加工液の流れで加工くずを排出し、放電を安定化させる
- 放電を繰り返し、狙いの形状へ近づける(荒加工→仕上げ加工)
放電条件(電流、パルス幅、休止時間)、加工液、サーボ制御が安定加工の鍵になります。
メリット
- 硬質材・熱処理材・難削材でも加工しやすい
- 複雑形状や深い凹部の加工が可能
- 非接触加工のため、加工応力が小さく変形しにくい
- 微細加工や狭小部の加工に対応しやすい
デメリットと注意点
- 加工速度が切削より遅い傾向がある(特に大面積の除去)
- 導電性材料に限定される
- 電極摩耗やワイヤ消耗があり、コストと管理が必要
- 熱影響による表面改質層(白層)や微小クラックが課題になる場合がある
- 加工液の管理(絶縁性・清浄度・温度)が品質に直結する
品質を左右する重要ポイント
加工精度
- 形彫り:電極摩耗補正、放電ギャップ、電極材の選定が重要
- ワイヤ:加工液温度管理、複数回カット(仕上げカット)で精度と面粗さを両立
表面性状(面粗さ・白層)
荒加工は除去量優先で面粗さが粗くなりやすく、仕上げ条件では白層を抑えた高品位面に近づけます。金型寿命や疲労強度が重要な用途では、仕上げ条件の最適化に加え、必要に応じて後工程(研磨、ショット、熱処理、表面処理)を組み合わせます。
加工液(絶縁油・純水)
- 形彫りEDM:絶縁油を使用することが多い
- ワイヤEDM:純水(脱イオン水)を使用することが多い
フィルタ管理や導電率管理が不十分だと、放電が不安定になり、面不良・寸法ばらつき・ワイヤ断線などにつながります。
他工法との比較で分かる選定の考え方
- 切削加工:高速・低コストになりやすいが、難削材や深い凹部は制約が出やすい
- 研削加工:高精度・高品位面に強いが、形状自由度や深い内部形状は限界がある
- レーザー加工:高速だが熱影響やテーパー、材料による加工性差が出やすい
- EDM:難削材・複雑形状・微細加工に強いが、時間と消耗管理が必要
総合的には、形状の難易度、材料、要求精度、面粗さ、コスト、量産性を並べ、最適な工法または組み合わせを選びます。
電気放電加工の主な応用例
- 金型:プレス金型、射出成形金型、ダイカスト金型のキャビティ・入子・リブ加工
- 精密部品:治具、微細スリット部品、精密機構部品
- 航空宇宙:耐熱合金部品、複雑形状部品、冷却穴加工
- 自動車:高精度ギア周辺部品、燃料系部品、量産金型部品
- 医療:微細部品、金属加工の高精度部材
将来展望
電気放電加工は、金型の高精度化や難削材加工の需要とともに重要性が続きます。今後は、加工条件の自動最適化、加工状態のモニタリング、電極摩耗補正の高度化、加工液管理の自動化などにより、品質の安定化と段取り削減が進むと見込まれます。加えて、切削・研削・レーザーなど他工法とのハイブリッド工程設計が、リードタイム短縮とコスト最適化の鍵になります。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 電気放電加工で加工できない材料はありますか?
- A. 基本的に導電性材料が対象です。樹脂やガラスなど非導電性材料は通常加工できません。導電性セラミックスや特殊工法はありますが、適用可否は要件次第です。
- Q2. 形彫り放電加工とワイヤ放電加工の違いは何ですか?
- A. 形彫りは電極形状を転写して三次元の凹形状を作る方式、ワイヤは細いワイヤで輪郭を切断する方式です。金型キャビティは形彫り、パンチ・ダイの輪郭はワイヤが選ばれやすい傾向です。
- Q3. 放電加工の面が荒れる原因は何ですか?
- A. 荒加工条件の影響のほか、加工液の汚れ、導電率管理不良、くず排出不足、条件不整合などで放電が不安定になると面不良が起きやすくなります。仕上げ条件と加工液管理が重要です。
- Q4. 電極摩耗は避けられませんか?
- A. 形彫り放電加工では電極摩耗は発生します。電極材の選定、条件最適化、摩耗補正(オフセット、分割電極、複数電極)で影響を抑えるのが一般的です。
- Q5. 放電加工後に追加の仕上げ工程は必要ですか?
- A. 用途によります。金型の意匠面や疲労強度が重要な部品では、研磨や表面処理を組み合わせることがあります。寸法・面粗さ・寿命の要求から工程設計します。
- Q6. 微細加工や深穴加工はどの方式が向いていますか?
- A. 微細スリットや輪郭はワイヤ放電、深穴や小径穴は微細穴放電加工が向きます。形状と要求精度、材質、アスペクト比で選定します。

