ブチルゴム(ぶちるごむ)

ブチルゴムとは?

ブチルゴム(Butyl Rubber)は、イソブテン(C4H8)と微量のイソプレン(C5H8)を共重合して得られる合成ゴムで、高分子化合物の一種です。1930年代にアメリカで開発され、現在では主に空気やガスを通しにくい高気密性素材として、自動車・建築・医療・工業製品など幅広い分野で利用されています。

化学構造と特性

ブチルゴムは、主鎖にイソブテン由来の飽和炭素骨格を持ち、わずかに含まれるイソプレン由来の二重結合部位を化学反応点として利用します。この構造により、以下のような特性を発揮します:

  • 高気密性:空気やガスの透過率が非常に低く、タイヤの内側層や密封材料に最適。
  • 優れた耐熱性:110〜120℃の環境でも長期間物性を維持。
  • 耐薬品性:酸・アルカリ・極性溶剤などに対して安定。
  • 電気絶縁性:誘電率が低く、電線被覆材などに適用可能。
  • 音・振動吸収性:防振材・制振材としても効果的。

製造方法

ブチルゴムは、低温下(−100℃前後)でのカチオン重合法によって合成されます。主に以下の工程を経て製造されます:

  1. イソブテンおよびイソプレンの共重合
  2. ポリマーの脱溶媒・濃縮・造粒
  3. 押出成形または加硫による最終製品化

近年では「臭素化ブチルゴム(BIIR)」や「塩素化ブチルゴム(CIIR)」といった派生品も登場しており、加硫性や接着性を向上させたバリエーションが開発されています。

用途と応用分野

ブチルゴムは以下のような用途で使用されています:

  • 自動車産業:タイヤのインナーライナー、エアバッグ、シール材、窓枠ガスケットなど
  • 建築・土木:防水シート、防音パネル、振動吸収マット、接着剤
  • 医療分野:点滴チューブ、注射器のピストン、医療用栓材、人工臓器部品
  • 工業資材:コンデンサー、ケーブル絶縁、工業用パッキン、エアコンホースなど

市場動向と価格の傾向

ブチルゴムの価格は、原油価格およびナフサ価格と連動しています。また、中国・インドなどの自動車需要の高まりにより、グローバル市場での需要も年々拡大中です。高機能・高性能化への需要増に伴い、BIIRやCIIRなどの特殊グレードの比率も増えつつあります。

環境影響とリサイクル

ブチルゴムは、加硫に硫黄を使用しないタイプも多く、有害な硫化物の発生を抑えられる点で環境面に優れています。一方、熱可塑性が低く、リサイクルには限界があるため、現在は熱分解によるケミカルリサイクルや、回収再加工の取り組みが研究されています。

他の合成ゴムとの比較

項目 ブチルゴム SBR(スチレンブタジエンゴム) EPDM(エチレンプロピレンゴム)
気密性 非常に高い 中程度 中程度
耐熱性 良好(〜120℃) やや低い 優れている(〜150℃)
電気絶縁性 非常に高い 高い 非常に高い
価格 やや高価 安価 中程度
主な用途 タイヤ、医療用栓、シール材 タイヤ、靴底、ホース 建材、電線被覆、屋外用途

まとめ

ブチルゴムは、その高気密性・耐熱性・耐薬品性などの優れた特性により、極めて広範な分野で利用される高性能な合成ゴム素材です。特に自動車用タイヤや医療機器といった精密性と安全性が要求される用途においては欠かせない存在です。今後はリサイクル技術の進化や、新たなハイブリッド材料との融合によるさらなる応用の広がりが期待されます。

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