リチウム(りちうむ)

リチウムとは?

リチウム(元素記号:Li、原子番号:3)は、周期表で最も軽い金属元素であり、アルカリ金属の一種です。銀白色の金属光沢を持ち、比重はわずか0.534g/cm³と非常に軽量です。その高い電気化学活性により、リチウムイオン電池の主要材料として世界的に需要が高まっています。

空気や水分に触れると急速に酸化・反応するため、取扱いには高度な安全対策が必要ですが、エネルギー密度・反応性・比重量といった性質から、電池・医薬品・航空・宇宙分野など幅広い用途で活用されています。

リチウムの原材料と採掘地

リチウムの主な供給源は以下の2つです:

  • リチウム鉱石(スポジュメンなど):主にオーストラリア、中国で採掘。高純度で短納期。
  • 塩湖水(リチウム塩水):チリ、アルゼンチン、ボリビアの「リチウムトライアングル」と呼ばれる地域で生産。生産コストが安価。

その他、海水中にもリチウムが微量に含まれていますが、現在は商業的に採取されていません。

リチウムの製造工程

リチウムの製造は、原料に応じて以下の工程を経て行われます:

鉱石由来の場合(オーストラリア等)

  1. 採鉱 → 鉱石の粉砕
  2. 加熱 → 精鉱(スポジュメン)への転換
  3. 酸処理(硫酸焙焼) → 溶出 → 炭酸リチウム・水酸化リチウムとして抽出

塩湖由来の場合(南米等)

  1. 塩湖水の汲み上げ → 蒸発濃縮
  2. ボレイト・マグネシウム除去
  3. 炭酸リチウム・水酸化リチウムへ精製

環境対策と水資源管理が近年の課題となっており、直接リチウム抽出(DLE)技術の開発も進行中です。

リチウムの特性

  • 比重:0.534g/cm³(最も軽い金属)
  • 融点:約180.5℃、沸点:約1,342℃
  • 非常に高い電気化学ポテンシャル(-3.04V)
  • 空気・水・酸素と急速に反応し酸化
  • 発火性・爆発性があり、管理には厳密な手順が必要

リチウムの主な用途

  • リチウムイオン電池(LIB):スマートフォン、EV(電気自動車)、家庭用蓄電池など
  • 合金材料:アルミニウムやマグネシウムとの合金で航空機部材に利用
  • ガラス・セラミック:耐熱ガラスや陶磁器用のフラックス材料
  • 医薬品:双極性障害(躁うつ病)治療のための炭酸リチウム
  • 空調・冷却材:リチウム臭化物(吸収式冷凍機)

価格動向と市場の変化

2021年以降、リチウム価格は以下の理由で5倍以上に高騰しました:

  • EV普及による電池需要の爆発的増加
  • 供給能力の制約(新鉱山開発・環境規制)
  • 中国の国内需要急増と輸出制限

2023年には一時的な調整局面も見られましたが、2024年以降はインド・EUのEV政策により再度上昇傾向が続いています。

世界の生産量と需要推移

世界のリチウム生産量(2023年時点):約15万トン(LCE換算)
(出典:USGS)

主な生産国(2023年)

  • オーストラリア:約46%
  • チリ:約26%
  • 中国:約18%
  • アルゼンチン:約6%

世界の需要(2024年見通し):約18万トン(LCE)
2030年には約200万トン超に達するとの予測もあります。

主要な輸出国・輸入国

区分 主な国 備考
輸出国 オーストラリア、チリ、アルゼンチン 鉱石・塩水を中心に輸出
輸入国 中国、日本、韓国、ドイツ 電池・材料メーカーが集積
精製国 中国(世界シェア6割) 電池材料用の精製リチウムを大量供給

環境負荷とリサイクル動向

リチウム生産に伴う主な環境問題:

  • 塩湖水汲み上げによる水資源枯渇
  • 採鉱による生態系破壊・地盤沈下
  • 排水・薬剤による土壌汚染

このため、各国で使用済リチウムイオン電池のリサイクルが強化されています。

リサイクル手法:

  • 乾式焼成法(Pyrolysis)
  • 湿式浸出法(Hydrometallurgy)
  • 直接再生法(Direct Recycling)

今後は都市鉱山として、使用済み電池からのリチウム回収が主要な供給源になる可能性があります。

品質管理と国際基準

高純度リチウムは電池性能に直結するため、以下のような厳格な品質基準が設定されています:

  • 純度:99.5%以上(電池用)、99.99%(半導体・医療用)
  • 不純物:Fe, Na, Mg, Alなど微量元素の含有量管理
  • 粒度・形状:結晶粒子の粒度分布制御
  • 結晶構造:α型・β型の制御(主にリチウム酸化物)

ISO/IEC、JIS、ASTMなどで測定法や分析規格が定められています。

加工方法と取り扱い上の注意点

リチウム金属は非常に反応性が高く、以下のようなリスクを伴います:

  • 空気・水分との接触による発火・爆発
  • 溶接・切削時の熱暴走リスク
  • 保存時は乾燥・不活性雰囲気(アルゴン・ヘリウム)が必要

加工例:

  • スライス加工(精密刃物)
  • 封入成形(電池用ペレットなど)
  • 蒸着(真空環境下で薄膜形成)

まとめ

リチウムは、次世代エネルギー社会を支える戦略金属として、その重要性が年々高まっています。特にEV・再生可能エネルギーの拡大に伴い、安定供給と環境対応の両立が求められるようになっています。

今後は、上流の採掘・精製から下流のリサイクル・再資源化までを含めた、持続可能なリチウムバリューチェーンの構築が鍵を握ります。各国の政策・企業戦略・技術革新の動向を注視しながら、リチウム関連の市場はさらに進化していくと見られています。

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