リチウムとは
リチウム(元素記号:Li、原子番号:3)は、アルカリ金属に分類される非常に軽い金属元素です。電気化学的に反応しやすい特性を持ち、電池材料を中心に、ガラス・セラミック、潤滑剤、医薬品、合金など幅広い分野で利用されています。
特に近年は、電気自動車(EV)や蓄電システムの普及により、リチウム化合物(炭酸リチウム、水酸化リチウムなど)の需要が拡大しています。一方で、資源供給・精製能力・環境対応・リサイクル体制が同時に問われる「戦略材料」としての側面も強まっています。
リチウムが重要視される理由
- 電池のエネルギー密度を高めやすく、携帯機器からEVまで用途が広い
- 再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、蓄電需要が増えている
- 供給国や精製拠点が偏在しやすく、調達リスク管理が重要
主な形態(材料として流通する姿)
「リチウム」と一口に言っても、用途では金属そのものより化合物として使われるケースが一般的です。
- 炭酸リチウム(Li2CO3):電池正極材の原料、ガラス・セラミック原料など
- 水酸化リチウム(LiOH):高ニッケル系正極材の原料として重要
- 塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr):吸収式冷凍機、化学用途など
- 金属リチウム:一次電池、特殊用途の合金・化学用途、研究用途など
原料と産出のしくみ
リチウム資源は主に次の2系統から得られます。供給リードタイム、コスト、環境条件が異なるため、用途や契約形態によって採用が分かれます。
鉱石(ハードロック)由来
- 代表鉱物:スポジュメン(リチウム輝石)など
- 特徴:比較的安定した品質で生産しやすい一方、採鉱・焙焼・薬品処理など工程負荷が大きい
塩湖かん水(ブライン)由来
- 特徴:蒸発濃縮などで回収する方式が多く、地域の水資源・環境条件の影響を受けやすい
- 近年の焦点:蒸発池に依存しない直接抽出(DLE:Direct Lithium Extraction)など、回収効率と環境配慮を両立する技術が注目
製造工程の概要(精製までの流れ)
鉱石由来の一般的な流れ
- 採鉱・選鉱(精鉱化)
- 焙焼などで反応しやすい形へ転換
- 溶出・精製
- 炭酸リチウム/水酸化リチウムとして製品化
塩湖かん水由来の一般的な流れ
- かん水の汲み上げ
- 蒸発濃縮(方式によってはDLEなどの抽出プロセスへ)
- 不純物除去(Mg、Caなど)
- 炭酸リチウム/水酸化リチウムとして製品化
リチウムの物性と取り扱い上の注意
リチウム(金属)は軽量で反応性が高く、空気中の水分や酸素と反応しやすい性質があります。用途の多くは化合物形態ですが、金属リチウムや反応性の高い粉体を扱う場合は安全設計が必須です。
- 金属リチウムは水分と反応して発熱・発火につながることがある
- 保管は乾燥環境や不活性雰囲気、適切な容器・手順が重要
- 粉じん・切削くずは熱源になり得るため、回収・保管・廃棄ルールを明確化する
主な用途
1. 蓄電池(リチウムイオン電池)
- スマートフォン、ノートPC、電動工具、EV、定置用蓄電池
- 電池の材料は、電解液、正極材、負極材など多層構造で、リチウム化合物は主に正極材側の原料として重要
2. ガラス・セラミック
- 耐熱性・耐衝撃性の向上、焼成温度の調整などに用いられる
3. 潤滑剤・化学用途
- リチウムグリース(耐熱・耐水性を求める用途)
- 化学合成や触媒、乾燥剤用途など(用途により形態が異なる)
4. 合金・航空宇宙分野
- 軽量化を狙った合金用途(設計・規格要件により採用が分かれる)
5. 医薬品
- 炭酸リチウムが特定の精神疾患の治療に用いられる(医療用途は法規制・管理が前提)
市場・価格動向の見方
リチウム価格は、電池需要、鉱山・精製能力の増減、在庫水準、政策、地政学、契約形態(長期契約/スポット)などで変動します。短期では需給調整で上下しやすく、中長期ではEV・蓄電の普及スピードと供給投資の進捗が重要な要因になります。
- 上流(採掘)と中流(精製)のボトルネックが価格に反映されやすい
- 電池向けは純度・不純物管理が厳しく、汎用品と同じ尺度で比較しにくい
主要生産地・サプライチェーンの特徴
リチウム資源は複数地域に分布しますが、採掘・精製・電池材料化の拠点が地域的に偏る傾向があります。そのため、調達では「どこの鉱山から来るか」だけでなく「どこで精製され、どの規格で納入されるか」まで含めた把握が重要です。
- 鉱石由来と塩湖由来でサプライチェーンの構造が異なる
- 精製能力や材料化の集積が調達リスクとコストに影響する
環境負荷とサステナビリティ
リチウムの供給拡大は、環境と社会への配慮が不可欠です。地域の水資源、生態系、エネルギー使用、化学薬品の管理、廃棄物処理などが論点になります。
- 塩湖かん水:水資源・塩類バランス・地域社会との合意形成が重要
- 鉱石:採掘・焙焼・薬品処理に伴うエネルギー使用と排出管理が重要
- トレーサビリティ:調達段階から環境・人権・コンプライアンス情報の管理が求められやすい
リサイクル(都市鉱山)と今後の供給
使用済みリチウムイオン電池からの資源回収は、資源制約と環境負荷を抑える上で重要です。回収対象はリチウムだけでなく、ニッケル、コバルト、銅、アルミなども含まれ、プロセス設計は電池の種類や回収ルートで変わります。
- 湿式・乾式・直接再生など複数の回収アプローチがある
- 回収の鍵は、回収網(回収率)、安全な前処理、材料として再投入できる品質の確保
品質管理で重視されるポイント
電池用途では、わずかな不純物が性能・安全性・寿命に影響するため、材料規格と分析体制が重要です。設計側は、必要なグレードを定義し、受入検査・工程管理・変更管理を整備することが求められます。
- 純度、微量不純物(Na、K、Fe、Mg、Caなど)の管理
- 粒度分布、含水、ロット間ばらつきの管理
- 用途に応じた規格(電池用、工業用など)の切り分け
まとめ
リチウムは、蓄電池を中心にエネルギー転換を支える重要材料です。需要拡大に伴い、採掘から精製、材料化、リサイクルまでの一連のバリューチェーンをどう構築・最適化するかが競争力を左右します。用途に合う形態とグレードを選び、調達リスク、品質、環境対応をセットで設計することが、これからのリチウム活用では欠かせません。
よくある質問(FAQ)
- Q1. リチウムとリチウムイオン電池は同じものですか?
- A. 同じではありません。リチウムは元素(または化合物)で、リチウムイオン電池はリチウムを含む材料を用いた二次電池の総称です。電池ではリチウム金属そのものではなく、主にリチウム化合物が材料として使われます。
- Q2. リチウムはどこから採れるのですか?
- A. 主に鉱石(スポジュメンなど)と塩湖かん水(ブライン)から回収されます。供給ルートによってコストや環境条件、精製プロセスが異なります。
- Q3. 炭酸リチウムと水酸化リチウムの違いは何ですか?
- A. どちらも重要なリチウム化合物ですが、用途で使い分けられます。一般に水酸化リチウムは高ニッケル系正極材などで重視され、炭酸リチウムは幅広い電池材料やガラス・セラミック用途で使われます。
- Q4. リチウムは危険物ですか?
- A. 金属リチウムは水分と反応して発熱・発火につながることがあり、取り扱いには注意が必要です。一方、用途で多い炭酸リチウムや水酸化リチウムなどの化合物も、粉じん吸入や皮膚刺激などのリスクがあるため、適切な保護具と安全手順に従うことが重要です。
- Q5. リチウムはリサイクルできますか?
- A. 可能です。使用済みリチウムイオン電池からは、リチウムに加えてニッケルやコバルトなども回収対象になります。回収プロセスや回収率は電池の種類・回収網・設備により異なります。
- Q6. 調達や製品設計で注意すべき点は何ですか?
- A. 電池用途では純度や不純物管理が性能に直結します。必要グレードの定義、受入検査、ロットばらつき管理、供給元の変更管理、トレーサビリティ確認をセットで整備することが推奨されます。

