工場のクリーンルームとは、空気中の微粒子(パーティクル)や微生物、化学汚染(分子状汚染)を管理し、製品不良や歩留まり低下を防ぐための清浄環境です。半導体・電子部品・医薬・化粧品・食品・精密機器などでは、微小な異物混入が品質や安全性に直結するため、クリーンルームの設計と運用が製造品質の基盤になります。
工場のクリーンルームとは
クリーンルームは、空気中の浮遊粒子数や微生物、温湿度、圧力差などを規定値内に保つ専用空間です。一般的にはHEPAやULPAフィルタで清浄化した空気を供給し、室内の汚染物を排出しやすい気流を作ります。工場では、製品特性に合わせて清浄度クラスや運用ルールを決め、工程の安定と不良低減を狙います。
なぜ製造業でクリーンルームが必要なのか
クリーンルームが必要になる理由は、異物・微生物・分子状汚染が製品品質に与える影響が大きいからです。目に見えない汚染でも、工程上は致命的な欠陥につながることがあります。
- 異物混入による外観不良、導通不良、リーク、摩耗の発生を抑える
- 微生物汚染による品質劣化や衛生リスクを低減する(医薬・食品など)
- 静電気由来の付着や破壊を減らす(電子部品など)
- 再現性のある工程条件を維持し、歩留まりと生産性を安定化する
クリーンルームで管理する主な項目
清浄度だけを上げても不良が減らないことがあります。製造業のクリーンルームは、工程に必要な管理項目をセットで設計することが重要です。
- 浮遊粒子数(パーティクル):サイズ別の粒子数を管理
- 浮遊微生物・落下菌:医薬、化粧品、食品などで重要
- 温度・湿度:寸法安定、粘着、結露、静電気に影響
- 室圧(差圧):清浄エリアから汚染エリアへの逆流を防ぐ
- 気流・換気回数:汚染物を滞留させず、排出しやすい流れを作る
- 分子状汚染(AMC):におい成分や有機ガス、酸性・塩基性ガスなど
- 清掃レベル:床・壁・設備の発塵源管理
清浄度クラスの考え方
クリーンルームの清浄度は、空気中の粒子数を基準にクラス分けされます。設計では、製品の許容欠陥率や工程感度から必要クラスを決め、過剰スペックによるコスト増を避けることが重要です。
| 検討観点 | 内容 | 決め方のポイント |
|---|---|---|
| 工程感度 | 異物1個が不良になるか | 欠陥モードと粒子サイズの関係を整理する |
| 製品サイズ | 付着面積・露出面積 | 露出時間と工程滞留を短縮する設計も有効 |
| 歩留まり目標 | 不良率・再作業率 | 目標に対する必要清浄度を逆算する |
| コスト | 設備費・電力・保全費 | 必要最小限のクラスを局所化で実現する |
工場クリーンルームの方式
工場のクリーンルームは、気流設計と清浄化の考え方で方式が分かれます。目的に合う方式を選ぶと、コストと品質を両立しやすくなります。
乱流方式(非一方向流)
天井や壁から清浄空気を供給し、室内で混合しながら排気する方式です。広い範囲を比較的低コストで清浄化しやすく、一般的な組立・検査・包装などに採用されます。
一方向流方式(層流)
天井面などから一定方向に空気を流し、汚染物を下流へ押し流す方式です。高い清浄度が求められる工程で有効ですが、設備費と電力が増えやすい点に注意が必要です。
局所クリーン(クリーンブース・クリーンベンチ)
部屋全体を高クラスにせず、重要工程だけを局所的に高クラス化する考え方です。投資と運転コストを抑えつつ、歩留まりに効く部分へ集中投資しやすい方式です。
設計の基本(レイアウト・動線・差圧が品質を決める)
クリーンルームの設計は、空調機器だけでなく、動線と区画の作り方が成功を左右します。現場で問題になりやすいのは、人・物・廃棄物の交差、差圧の崩れ、発塵源の持ち込みです。
- ゾーニング:清浄度の異なるエリアを段階的に配置する
- 差圧設計:清浄側を正圧にし、逆流を防ぐ
- 人の動線:更衣、エアシャワー、手洗い、入退室手順を工程に合わせる
- 物の動線:資材搬入、仕掛品移動、完成品搬出を分離する
- 廃棄物動線:ゴミ・梱包材・清掃具の戻り汚染を防ぐ
- 清掃性:角のR、配線・配管の露出削減、床材選定で清掃負荷を下げる
クリーンルーム運用ルール(人が最大の発塵源)
工場のクリーンルームでは、発塵源の大きな割合を人が占めます。設備更新よりも、運用ルールの整備が歩留まりに効くケースも多いです。
- 更衣と着衣:クリーンスーツ、手袋、マスク、ヘアキャップの着用手順を標準化
- 入退室:エアシャワー、粘着マット、持込物の拭き上げを徹底
- 持ち込み管理:紙、段ボール、木材、潤滑油など発塵・発ガス源を制限
- 清掃:頻度と方法を決め、見える化して未実施を防止
- 教育:禁止事項だけでなく、なぜ必要かを理解させる
よくあるトラブルと対策
クリーンルームの不具合は、清浄度の数字だけでは発見しにくいことがあります。発生しやすいトラブルをパターン化し、先回りで対策するのが有効です。
| トラブル | 主な原因 | 対策例 |
|---|---|---|
| 粒子数が急に増える | フィルタ劣化、扉開放、資材持込、清掃不足 | 差圧監視、入退室ルール見直し、清掃強化、フィルタ点検 |
| 局所で不良が増える | 気流のよどみ、設備の発塵、作業姿勢 | 気流可視化、設備カバー、局所排気、作業標準改善 |
| 静電気で異物が付着する | 低湿度、帯電材料、接地不足 | 湿度管理、帯電防止材、イオナイザ、アース強化 |
| におい・ガス影響が出る | 溶剤、樹脂発ガス、吸着材飽和 | 材料切替、換気設計、AMC対策、吸着フィルタ管理 |
設備・コストの考え方(過剰スペックを避ける)
クリーンルームは、設備費だけでなく運転費(電力、フィルタ交換、点検、清掃)を含めたライフサイクルで考える必要があります。全体を高クラスにするより、重要工程を局所クリーン化する方が合理的な場合もあります。
- 必要クラスの見極め:工程感度と欠陥モードから決める
- 局所化:重要工程だけを高クラスにし、周辺は段階的に設計する
- 運転最適化:稼働時間や人員に合わせて風量や運転モードを設計する
- 保全計画:フィルタ交換周期、差圧監視、清掃計画を前提にする
導入・改修の進め方(失敗しない手順)
クリーンルーム導入で失敗しやすいのは、設備仕様だけ先に決めてしまい、動線や運用が後追いになるケースです。実務では、工程要件から逆算して設計するのが近道です。
- 不良と工程の関係整理:異物サイズ、発生箇所、露出時間、欠陥モードを特定
- 要求仕様の定義:清浄度、温湿度、差圧、運用ルール、検査方法を決める
- レイアウト設計:人・物・廃棄物の動線とゾーニングを固める
- 方式選定:乱流、一方向流、局所クリーンの組み合わせを検討する
- 試運転と検証:粒子数、差圧、気流、温湿度を測定し、工程で確認する
- 運用定着:教育、清掃、点検、記録の仕組みを回す
よくある質問(Q&A)
Q1. 工場のクリーンルームとクリーンブースはどう違いますか?
クリーンルームは部屋全体を清浄化し、差圧や動線も含めて管理します。クリーンブースは重要工程だけを局所的に清浄化する考え方で、投資と運転コストを抑えやすい一方、周辺環境の影響を受けやすい場合があります。
Q2. 清浄度クラスは高いほど良いのですか?
高いほど良いとは限りません。清浄度を上げると設備費と運転費が増えます。工程が必要とする清浄度を見極め、重要工程を局所的に高クラス化する方が合理的なケースも多いです。
Q3. クリーンルームで最も大きな汚染源は何ですか?
多くの現場では人が最大の発塵源になります。更衣、入退室、持込物、清掃のルールを整えるだけで、粒子数や不良が大きく改善することがあります。
Q4. 差圧管理はなぜ重要ですか?
差圧が崩れると、汚染度の高いエリアから清浄エリアへ空気が逆流し、汚染を持ち込みやすくなります。扉の開閉や搬入出の運用も含めて、差圧が維持される設計とルールが必要です。
Q5. クリーンルームの導入前に最低限決めるべきことは何ですか?
どの工程で何を防ぎたいかを明確にすることです。異物サイズ、発生源、露出時間、許容不良率を整理し、必要な清浄度、温湿度、差圧、動線、清掃・教育ルールまでセットで仕様化すると失敗しにくくなります。
Q6. 既存工場をクリーン化する改修で失敗しやすい点は?
空調設備だけを入れても、動線や持込物ルールが変わらないと効果が出にくい点です。改修では、ゾーニング、入退室、資材搬入、清掃性、差圧監視まで含めた運用設計が重要です。
まとめ(クリーンルームは設備より運用設計が効く)
工場のクリーンルームは、異物・微生物・分子状汚染を管理し、歩留まりと品質を安定させるための清浄環境です。成功の鍵は、清浄度クラスを上げることよりも、工程感度に合った方式選定、動線とゾーニング、差圧管理、持込物と清掃の運用をセットで設計することにあります。重要工程を局所クリーン化するなど、必要なところに集中投資し、データと標準化で運用を回すことで、クリーンルームの効果を最大化できます。

