「加工業と製造業の違いが曖昧でよくわからない」という声は、中小企業の現場からもよく聞かれます。特に業種分類や補助金・許認可などの場面では、その違いが重要になることがあります。
本記事では、加工業と製造業の違いについて、定義・法律上の位置づけ・具体的な業種例・統計データなどを交えながら、実務目線で分かりやすく解説します。
加工業と製造業の定義の違い
製造業の定義
製造業は、原材料や部品などに手を加えて、新たな製品(最終製品・部品)を作り出す産業を指します。具体的には、鉄鋼、化学、機械、電気、食品など、さまざまな産業が含まれます。
加工業の定義
加工業は、原材料や製品に対して「部分的な変更」や「改良・補強」を行うことを主とする業種を指します。素材の一部を切断、穴あけ、研磨、塗装などすることで付加価値を加える業務が該当します。
項目 | 製造業 | 加工業 |
---|---|---|
目的 | 新たな製品を作り出す | 既存製品に付加価値を加える |
工程 | 設計・素材調達・組立・製造 | 切削・表面処理・部分修正 |
例 | 自動車メーカー、家電製造 | 金属研磨業、塗装業、部品加工 |
業務の完結性 | 製品をゼロから完成まで | 他工程との連携で成り立つ |
中小企業庁・経済産業省における分類
実際の行政上でも、「製造業」と「加工業」は一体として扱われることが多いです。経済産業省の「工業統計調査」では、以下のように分類されます:
- 日本標準産業分類(JSIC)では、製造業の中に「金属加工業」「表面処理業」「食品加工業」などの加工系業種が含まれている
- 補助金や助成金の多くでは「製造業」と一括表記されるが、実態としては加工業者も対象
つまり、法的・制度的には、加工業も「広義の製造業」に含まれるのが一般的です。
具体的な業種例の比較
業種名 | 分類 | 特徴 |
---|---|---|
板金加工業 | 加工業 | 板状の金属を切断・曲げ・溶接など |
自動車メーカー | 製造業 | 部品から自社で設計・組立・販売まで |
プレス加工業 | 加工業 | 金属をプレス機で成形 |
電子部品製造業 | 製造業 | 基板・センサー・コンデンサなどを製造 |
表面処理業 | 加工業 | めっき・塗装・アルマイト処理など |
このように、「加工業」は、ある材料・部品に対する”処理”的な業務を担う業種が多く、「製造業」は、より製品開発や完成品組立を含む広範な業務範囲を持っています。
実務上の違い:コスト構造・業務フロー・営業スタイル
要素 | 製造業 | 加工業 |
---|---|---|
コスト構造 | 材料費・設備投資が大きい | 人件費・外注費が中心 |
設備規模 | ライン・工場全体の構成が必要 | 単独設備(旋盤・溶接など)が多い |
営業スタイル | BtoB/BtoC両方あり | BtoB特化が多い(下請) |
製品設計 | 社内で対応する場合が多い | 顧客からの図面・仕様に従う |
実務上、加工業は「製造業の下請けポジション」になることが多いため、価格交渉力や利益率の課題が付きまといます。そのため、近年では加工業者の中でも自社製品・ブランド立ち上げによる“川上化”が注目されています。
統計データで見る加工業と製造業の位置付け
以下は、2022年時点の「工業統計調査」より、製造業全体と加工業系業種の構成比です。
業種区分 | 事業所数 | 従業者数 | 売上高(製造品出荷額) |
---|---|---|---|
製造業全体 | 約160,000 | 約7,500,000人 | 約345兆円 |
金属加工業 | 約19,000 | 約450,000人 | 約7.6兆円 |
表面処理業 | 約4,500 | 約70,000人 | 約1.2兆円 |
加工業単体でも、製造業全体に対して約10〜15%の事業所数・売上規模を占める重要なセグメントであることが分かります。
加工業は「製造業に含まれる」が実務で分けて考えるべき理由
行政上・法制度上では、加工業=製造業として扱われるケースが多いですが、次のような点では両者を区別する必要があります。
- 補助金・支援策の要件が異なる場合がある
- 営業戦略(受託型 or 自社ブランド)に差がある
- 財務構造(利益率、資産構成)に違いがある
特に中小企業の経営改善や事業再構築を検討する際は、自社が「どこまで製造業的役割を担っているか?」を正確に把握し、経営戦略に落とし込む必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 加工業者は製造業の補助金を申請できますか?
はい。補助金制度では加工業も「製造業」として対象に含まれることが多いです。ただし、個別制度の対象業種要件を必ず確認してください。
Q2. 加工業は下請業種という扱いですか?
一般的には、加工業は製造業の一工程を担うことが多く、元請からの受注が主な業務形態です。ただし、独自技術を生かした製品展開を行う企業も増えています。
Q3. 製造業と名乗るには許可が必要ですか?
いいえ。製造業・加工業ともに、通常は業種名を名乗るための許可は不要です。ただし、食品製造や薬品関連など、業種によっては別途許認可が必要なケースもあります。
まとめ:加工業と製造業の違いを知ることが経営の第一歩
加工業と製造業の違いは、定義上・実務上・制度上で異なる面があり、業界理解を深めるうえで非常に重要です。
- 加工業=素材や製品に付加価値を加える工程に特化
- 製造業=ゼロから完成品をつくるまでを担う広範な産業
- 行政上は「加工業=製造業」として扱われるケースが多い
- 戦略・経営指標・顧客対応は、両者で大きく異なる
自社の立ち位置を正しく認識することで、補助金申請、事業再構築、ブランディング、営業戦略などあらゆる意思決定の精度が高まります。
製造業に関わるすべての方にとって、「加工業との違い」は避けて通れないテーマです。ぜひ、この記事を参考に、自社の業態分析と今後の方向性を見直してみてください。