2025年版-製造業における実質賃金の推移と物価上昇の影響

コラム

製造業における実質賃金の推移と物価上昇の影響|統計と今後の課題

製造業における賃金水準は、企業の人材確保や生産性維持に直結する重要な指標です。しかし、名目賃金(額面の給与)が上昇していても、消費者物価指数(CPI)の上昇に追いつかない場合、実質賃金は減少し、生活水準の悪化を招きます。本記事では、日本の製造業における実質賃金の推移と物価上昇の影響を、統計データに基づいて詳しく解説します。

実質賃金とは?その意味と計算式

実質賃金とは、物価の変動を考慮して調整された賃金のことを指します。生活者の購買力を示す指標であり、次の計算式で求められます:

実質賃金 = 名目賃金 ÷ 消費者物価指数(CPI)×100

たとえば、名目賃金が500万円、CPIが105(基準年=100)であれば、実質賃金は約476万円となります。物価が上がっても給与が据え置かれた場合、実質的な購買力は減ることになります。

製造業における名目賃金・実質賃金の推移(2013年~2023年)

名目賃金(万円)CPI(総合)実質賃金(試算・万円)前年比増減
2013479100.0479
2014483103.0469-2.1%
2015489103.1474+1.0%
2016492102.8478+0.8%
2017500103.5483+1.0%
2018508104.6486+0.6%
2019511104.9487+0.2%
2020504101.9494+1.4%
2021510102.0500+1.2%
2022519104.1498-0.4%
2023526107.4490-1.6%

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」

2022年〜2023年は、名目賃金が上昇しているにも関わらず、実質賃金は前年比マイナスとなっており、物価上昇の影響が如実に現れています。

製造業における物価上昇の要因と影響

製造業が直面する物価上昇は、一般消費者の生活コスト上昇に加え、以下のような「コストプッシュ型」の影響を伴います。

  • 原材料費の高騰:鉄鋼、樹脂、電子部品などが大幅に値上がり(例:銅価格は2020年比で1.5倍)
  • 電力・燃料費の上昇:製造業では電力コストが10〜20%増加(2023年)
  • 物流費・輸送費の増加:輸入コンテナ費用はコロナ前の2〜3倍水準に推移

これにより、企業の利益を圧迫し、賃金原資の確保が困難になっている中小企業も多く存在します。

業種別・企業規模別に見る実質賃金の傾向

製造業内でも、業種や企業規模により実質賃金の影響度は異なります。

業種名目年収(万円)CPI調整後 実質年収備考
輸送用機械581約541大手企業が多く賃上げ幅が大きい
電子部品562約523高付加価値化による対応が可能
食料品485約453原料高騰の影響を受けやすい
印刷・関連458約427中小企業比率が高く、賃上げ余地が少ない

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、総務省CPI(2023年ベース)

実質賃金低下がもたらす経営・労務への影響

  • 採用難の加速:給与が相対的に見劣りし、若年層確保が困難に
  • 定着率の低下:転職市場で賃金水準を理由に離職する事例が増加
  • 従業員満足度の低下:実感として「生活が苦しい」ことがモチベーション低下に直結

今後の改善策と企業の対応戦略

実質賃金を維持・向上させるために、製造業では以下のような対応が広がりつつあります:

  1. 価格転嫁の推進:原価上昇分を適切に製品価格へ反映する交渉力の強化
  2. インセンティブ連動型報酬制度:生産性向上や改善提案に応じた報奨型の導入
  3. 職種別・スキル別給与体系の整備:機械保全、NCプログラムなどの専門職種に報いる制度
  4. 教育投資の強化と昇給連動:リスキリング・資格取得支援と給与制度の接続

実際に、人的資本経営を重視する企業では、これらを総合的に進めている例が増えています。

FAQ:実質賃金と製造業に関するよくある質問

Q. 名目賃金と実質賃金はどちらを重視すべき?

A. 社内評価や賞与査定では名目値が使われがちですが、従業員の生活実感や労働意欲に直結するのは実質賃金です。経営判断では双方のバランスが必要です。

Q. なぜ名目賃金が上がっても実質賃金は下がるのか?

A. 物価(CPI)の上昇率が賃上げ率を上回る場合、購買力は下がるためです。2023年はまさにこの状態でした。

Q. 実質賃金が高い製造業の特徴は?

A. 高付加価値な製品を生産し、価格転嫁力がある業界(自動車、半導体、医薬品など)では、物価上昇下でも実質賃金が維持されやすいです。

まとめ:物価上昇時代における実質賃金の重要性

製造業における実質賃金は、単なる「給与水準」ではなく、「企業としての持続可能性」と直結する経営指標です。物価上昇が避けられない今、企業は名目賃金の引き上げだけでなく、実質ベースでの購買力を維持できるよう、戦略的な報酬設計と業務改善が求められます。

賃金=コストではなく、成長のための投資と捉えたとき、実質賃金の向上が企業価値の向上につながるはずです。

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