ガスタングステンアーク溶接とは(GTAW/TIG溶接の概要)
ガスタングステンアーク溶接は、英語で「Gas Tungsten Arc Welding(GTAW)」と呼ばれ、日本では一般的に「TIG溶接」として知られている溶接方法です。非消耗電極であるタングステン電極と、不活性ガス(主にアルゴンやヘリウム)を使用し、電極と母材の間に発生するアーク熱によって金属を溶融・接合します。
電極自体は溶けず、必要に応じて別途フィラー金属を供給するため、溶融量や溶接ビードを精密にコントロールできる点が大きな特徴です。そのため、外観品質と内部品質の両方が求められる分野で広く採用されています。
開発背景と目的
ガスタングステンアーク溶接は、1950年代に航空機産業を中心に実用化されました。当時、アルミニウムやマグネシウムなどの非鉄金属は、酸化しやすく、従来の溶接法では品質の安定が難しい材料でした。
そこで、溶接部を不活性ガスで完全にシールドし、大気中の酸素や窒素の影響を遮断する溶接技術として開発されたのがGTAWです。この技術により、非鉄金属や高合金鋼の高品質溶接が可能となり、精密溶接分野の標準技術として定着しました。
ガスタングステンアーク溶接の基本的な仕組み
GTAWでは、タングステン電極と母材の間に電気アークを発生させ、その高温(約6,000〜20,000℃)によって母材を局所的に溶融します。同時に、トーチ先端から不活性ガスを連続的に供給し、溶融池と電極を大気から保護します。
溶接金属が必要な場合は、別途フィラーワイヤを手動または自動で供給します。この方式により、溶融量・溶込み深さ・ビード形状を細かく制御でき、非常に美しい溶接外観を得ることができます。
使用される主な設備・ツール
タングステン電極
電極には純タングステンやトリウム、セリウム、ランタンなどを添加した合金電極が使用されます。溶接電流の種類(直流・交流)や材料に応じて選定されます。
不活性ガス供給装置
主にアルゴンが使用され、溶込みを深くしたい場合にはヘリウムや混合ガスが用いられます。ガス流量は溶接品質に直結します。
溶接トーチ
トーチにはガスノズル、電極ホルダー、冷却機構(水冷・空冷)が組み込まれています。長時間溶接では水冷式が一般的です。
電源装置
直流(DC)、交流(AC)、パルス制御などがあり、材料や板厚に応じて使い分けます。
ガスタングステンアーク溶接の主な利点
- 溶接品質が非常に高く、外観が美しい
- スパッタがほとんど発生しない
- 非鉄金属やステンレス鋼など幅広い材料に対応
- 薄板や微細部品の溶接に適している
- 溶接条件を細かく制御できる
ガスタングステンアーク溶接の限界と課題
高品質な反面、以下のような課題も存在します。
- 溶接速度が遅く、生産性が低い
- 作業者に高度な技能と経験が求められる
- 設備コストおよびガスコストが比較的高い
- 風や気流の影響を受けやすい
そのため、大量生産ラインでは他の溶接法と使い分けられることが一般的です。
主な実用例
航空宇宙産業
航空機構造部材、エンジン部品、配管など、高信頼性が必須の部位に使用されています。
自動車産業
試作部品、高級車部品、排気系部品など、精度と外観が重視される用途で活用されています。
医療・精密機器分野
医療器具、分析装置、真空装置など、微細で清浄性が求められる溶接に適しています。
特に効果的な製造業の分野や状況
- 高品質・高信頼性が求められる製品
- 薄板や精密部品の溶接工程
- 試作・多品種少量生産
- 外観品質を重視する製品
安全性と作業環境への配慮
GTAWは比較的安全な溶接法ですが、強い紫外線や可視光を発するため、遮光面や保護メガネの着用が必須です。また、不活性ガスは酸素欠乏を引き起こす可能性があるため、作業場の十分な換気が重要です。
品質確保のための基本ガイドライン
- 電極先端形状の適切な研磨
- ガス流量とシールド範囲の管理
- 母材表面の清浄化(油・酸化膜除去)
- 材料ごとの適正電流・極性設定
近年の技術動向
近年では、パルスTIG溶接や自動TIG溶接、ロボットTIG溶接の導入が進んでいます。これにより、溶接品質の安定化、省人化、トレーサビリティの確保が実現されています。
まとめ
ガスタングステンアーク溶接は、極めて高品質な溶接を実現できる精密溶接技術です。非鉄金属やステンレス鋼など、多様な材料に対応でき、航空宇宙や医療分野をはじめとする高付加価値製品の製造に欠かせない存在となっています。
一方で、生産性やコスト面の課題もあるため、用途や生産規模に応じた適切な使い分けが重要です。適切な設備選定と技能習得により、GTAWは今後も高信頼性溶接技術として重要な役割を担い続けるでしょう。

