ソルトスプレー試験とは
ソルトスプレー試験(Salt Spray Test)は、塩水噴霧環境を人工的に再現し、金属部品・塗装皮膜・めっき処理などの耐食性を評価する試験方法です。JIS Z 2371やISO 9227に基づいて実施され、製造業や自動車産業、建築、家電など幅広い分野で品質保証に用いられています。腐食の進行具合を短時間で確認できるため、製品の長期耐久性を予測する際に欠かせない評価手法です。
ソルトスプレー試験の目的
この試験の目的は、部品や材料が塩分を含む過酷な環境下でどの程度耐久性を持つかを調べることです。以下のような品質評価に役立ちます。
- めっきや塗装など表面処理の品質確認
- 材料選定の基準づくり
- 屋外使用製品の耐候性評価
- 製品寿命予測の参考データ取得
試験の基本原理と仕組み
専用の試験槽内に塩水(一般的には5%塩化ナトリウム水溶液)を噴霧し、試料を継続的に曝露します。槽内は一定の温度・湿度に保たれ、腐食が進みやすい環境を人工的に再現します。
一定時間曝露後、錆の発生状況、膨れ、剥がれなどの変化を観察し、耐食性を評価します。
主な試験方式
中性塩水噴霧試験(NSS試験)
最も一般的な方式で、5%塩水を中性(pH 6.5〜7.2)で噴霧します。めっき製品・塗装品など多くの工業製品の評価に利用されます。
酢酸塩水噴霧試験(AASS試験)
塩水に酢酸を加え酸性環境を作る方式です。NSSよりも腐食が進みやすく、より厳しい条件で評価したい場合に用いられます。
キャス試験(CASS試験)
塩水に酢酸と塩化銅を加えた厳しい腐食試験です。装飾めっきなど高い耐食性が求められる表面処理品に使用されます。
ソルトスプレー試験のメリット
- 短期間で腐食傾向を確認できる
- 規格化されており比較評価が容易
- めっき・塗装など表面処理の品質確認に有効
- 屋外環境の劣化シミュレーションとして利用可能
デメリット・注意点
万能な試験ではないため、以下の点に注意が必要です。
- 実環境での腐食挙動とは必ずしも一致しない
- 加速試験のため、過剰な評価になる場合がある
- 試験条件がシビアなため、表面処理間の差が大きく出ることがある
- 製品寿命を正確に予測するものではなく、相対評価が中心
評価ポイント
試験終了後は目視検査を行い、以下のような点を確認します。
- 白錆(亜鉛めっきなどで発生)
- 赤錆(鉄基材の腐食)
- 塗膜の浮き・剥がれ
- 表面の膨れ・変色
評価基準は業界や製品ごとに異なり、社内基準を設けて管理する場合が一般的です。
試験が活用される主な分野
- 自動車(外装部品、ボルト、ナット、ホイールなど)
- 家電製品(屋外ユニット、金属外装)
- 建築資材(手すり、金属サッシ、フェンス)
- 船舶・海洋関連部材
- 産業機械や農機具
試験結果を活かすポイント
- 表面処理の改善にフィードバックする
- 比較試験を行い、最適な材料・処理方法を選定する
- 製品設計で腐食リスクを考慮する(排水性・通風性など)
- 顧客向けの品質保証データとして活用する
まとめ
ソルトスプレー試験は、表面処理品や金属部品の耐食性を短期間で評価できる重要な試験方法です。NSS・AASS・CASSといった試験方式により、製品特性や用途に応じた評価が可能です。実環境と完全に一致するわけではありませんが、相対比較や品質管理に大きな効果を発揮します。材料選定や表面処理の検証において、現在でも多くの製造業で欠かせない評価手法として利用されています。

