走査型電子顕微鏡(SEM)とは?
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)は、電子ビームを試料表面に照射し、そこから発生するさまざまな信号を検出することで微細構造を可視化する装置です。光学顕微鏡よりもはるかに高い解像度を持ち、ナノメートルスケールでの観察が可能です。
SEMの基本原理
SEMでは、電子銃から加速された電子ビーム(主電子線)が試料表面に走査(スキャン)され、電子と試料の相互作用によって以下のような信号が発生します:
- 二次電子(SE):表面形状の微細な凹凸を映し出す
- 反射電子(BSE):原子番号に応じたコントラストが得られ、材質の違いを識別可能
- 特性X線:元素分析に利用される
- カソードルミネッセンス、オージェ電子など:高度な材料評価に活用
高解像度と焦点深度の特徴
SEMの最大の特徴は、高解像度(〜1〜10 nm)と広い焦点深度です。光学顕微鏡では観察できない微細な構造も、SEMなら3D的な立体感を持って観察することが可能です。焦点深度が深いため、複雑な表面形状を明瞭に描写できます。
SEMで観察できる情報
信号 | 得られる情報 |
---|---|
二次電子 | 微細な表面構造・形状 |
反射電子 | 元素組成の違いによるコントラスト |
特性X線 | 元素の定性・定量分析(EDS) |
カソードルミネッセンス | 発光材料の評価 |
主な用途・活用分野
走査型電子顕微鏡は、以下の分野で重要なツールとして活用されています:
- 材料科学:金属、セラミックス、ポリマーなどの微細構造観察
- 半導体・エレクトロニクス:ICチップ、トランジスタの構造解析
- 生物学:細胞表面や微生物の立体観察(※金属コーティング処理が必要)
- 地球科学:鉱物・岩石の表面形状と成分分析
- 自動車・航空宇宙:破面解析、異物調査
SEMの構成要素と仕組み
- 電子銃:タングステンフィラメント、LaB6、FE(フィールドエミッション)タイプがある
- 電磁レンズ:電子ビームを絞り、試料に正確に照射
- スキャンコイル:ビームをX-Y方向に走査
- 検出器:SE検出器、BSE検出器、EDS検出器など
- 真空室:電子が空気中で散乱されないように高真空環境で観察
試料前処理のポイント
非導電性の試料は電子ビームが逃げずに帯電してしまうため、金属(Au, Pt)コーティングが必要です。生体試料や高分子材料では、脱水・乾燥処理や低真空モードの使用も考慮します。
エネルギー分散型X線分析装置(EDS)との併用
SEMは画像観察だけでなく、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を装着することで、観察している部位の元素分析が可能になります。これにより、異物解析や合金の成分分布の可視化などが実現されます。
利点と課題
利点 | 課題 |
---|---|
ナノスケールまで可視化できる | 非導電性試料は帯電の影響を受けやすい |
焦点深度が深く、立体感ある画像が得られる | 装置が高価、設置スペースや真空環境が必要 |
元素分析との併用が可能(EDS) | 生体試料や柔らかい材料には前処理が必要 |
SEMの解像度と倍率
- 解像度:1~5nm(FE-SEMでは1nm以下も可能)
- 倍率:約10倍~50万倍(モデルによって最大200万倍)
ただし、観察可能な分解能は装置の性能だけでなく、試料準備や観察条件にも左右されます。
近年の技術動向とスマート化
- 低加速電圧での観察:帯電抑制・高分解能の両立
- 自動分析・AI連携:欠陥検出や異常検知の自動化
- 卓上SEMの普及:省スペース・教育現場でも導入拡大
まとめ
走査型電子顕微鏡(SEM)は、微細構造の三次元的可視化と元素分析を1台で実現できる非常に強力な観察ツールです。高解像度、高焦点深度、マルチ信号検出の特性を活かし、材料開発、製品検査、異物解析、生体研究など幅広い分野で欠かせない存在となっています。
導入コストや前処理の工夫は必要ですが、その科学的価値と実用性の高さから、今後も活用分野はさらに広がっていくでしょう。