製造業のDX化課題-技術的課題

コラム

製造業DX化における技術的課題とは

製造業のDXは、AIやIoTなどの新技術を入れるだけでは成果につながりません。現場設備(OT)と情報システム(IT)、サプライチェーン、品質・保全、セキュリティ、データ基盤までを一体で整え、継続運用できる状態にすることが本質です。

一方で、製造業の現場にはレガシー設備・多様な規格・長寿命資産・品質要求の厳しさといった特徴があり、DX推進を難しくする技術課題が生じやすい状況にあります。ここでは、特に多くの企業が直面する技術課題を整理し、実務で使える解決アプローチをまとめます。

技術的課題1:適切なデジタル技術の選定が難しい

なぜ起きるのか

DX関連の技術は、AI、画像検査、予知保全、IoT、エッジ、クラウド、MES、PLM、デジタルツイン、ロボティクスなど選択肢が膨大です。さらに同じ「AI」でも目的が異なれば必要データ、評価指標、運用体制が変わります。そのため、技術が先に立つと「PoCで止まる」「効果が曖昧」「横展開できない」といった状態になりがちです。

よくある失敗パターン

  • ツール選びが目的化し、業務課題やKPIが曖昧なまま導入する
  • ベンダー提案をそのまま採用し、現場要件と乖離する
  • 評価指標がROI中心で、現場の可用性・品質・保全性を見落とす
  • PoCの条件が実運用と違い、量産展開で破綻する

解決アプローチ

  • 課題から逆算して選定する(歩留まり、停止ロス、段取り、リードタイムなどの損失起点)
  • 技術マップを作り、工程・設備・データ・KPIとの対応を可視化する
  • 現場・品質・保全・IT・経営が参加する評価体制を設ける
  • PoCは「データ取得→モデル→運用」の一連を小さく回し、成功条件を明文化してから拡張する

技術的課題2:既存システム・設備との統合が難しい

なぜ起きるのか

製造業は長期間稼働する設備が多く、PLC、SCADA、DCS、古いMES、オンプレERPなどが混在します。通信規格やデータ形式が揃っていない、APIがない、ドキュメントが不足している、ベンダーロックインがある、といった理由でデータ連携が進まず、サイロ化が固定化されます。

代表的な技術課題

  • データが吸い上げられない(設備が閉じている、プロトコルが特殊、接続制限が厳しい)
  • 工程間でデータ定義が揃わず、トレーサビリティが途切れる
  • システム改修の影響範囲が読めず、プロジェクトが長期化する
  • 担当者の退職や世代交代で運用知識が失われる

解決アプローチ

  • まずIT/OT資産を棚卸しし、データ流通図(どこに何があるか)を作る
  • 段階的統合を前提に、ゲートウェイ・ミドルウェア・iPaaSなどでつなぐ
  • 重要データから標準化し、データ辞書(名称・単位・更新周期・責任部門)を整備する
  • 刷新は一気に置き換えず、5〜10年のロードマップで計画しながら並行運用と移行を進める

技術的課題3:セキュリティと可用性を両立しにくい

なぜ起きるのか

スマートファクトリー化でネットワーク接続が増えるほど、攻撃面が広がります。製造現場では、停止が許されない、パッチ適用が難しい、古いOSが残る、といった制約があり、ITと同じセキュリティ運用をそのまま適用できません。その結果、対策が遅れたり、逆に対策が過剰で生産性が落ちたりします。

よくあるリスク

  • ランサムウェアによる生産停止、復旧の長期化
  • IoT端末の初期設定不備や認証弱化による侵入
  • 遠隔保守経路がブラックボックス化し、監査できない
  • 設計データやレシピなど知財の流出

解決アプローチ

  • IT/OTを分離したうえで、必要な連携だけを制御する(ゾーン分割、最小権限)
  • ゼロトラストの考え方で、アクセスを常に検証しログを残す
  • 監視体制を整え、外部SOCの活用も含めて24時間の検知・対応力を確保する
  • インシデント対応手順を作り、演習まで行う(止めないための準備)

技術的課題4:データ品質とデータマネジメントが整わない

なぜ起きるのか

DXの成果はデータ品質に依存します。しかし現場データは、欠損、手入力ミス、単位不一致、工程ごとの定義違いなどが起きやすく、分析やAIが使えない原因になります。また、誰がデータの責任者か不明確だと、改善も定着しません。

よくある状態

  • データがあるのに使えない(欠損、異常値、タイムスタンプ不整合)
  • 同じ項目名でも部門で意味が違う(歩留まり、稼働率、停止理由など)
  • マスタ(品目、設備、工程、取引先)が重複し、突合できない
  • 分析が特定担当者に依存し、現場改善へつながらない

解決アプローチ

  • データ品質KPIを設定し、欠損率・誤差率・遅延などを定期監査する
  • データスチュワード(責任者)を部門ごとに置き、運用で直す仕組みを作る
  • MDM(マスターデータ管理)で基準を統一し、横断分析可能な状態にする
  • ETL自動化やBI活用で、現場が自走できる分析環境を整える

技術的課題5:現場で運用が回らず、横展開できない

技術的に成功しても、運用で失敗するケースは多いです。モデルの劣化、設備更新、品種変更、作業者交代など、現場は常に変化します。DXを仕組みにするには、運用設計と保守性が不可欠です。

解決アプローチ

  • 運用を前提に、監視・再学習・変更管理まで含めた設計にする
  • 標準化できる部分(データ定義、テンプレ、KPI)を作り、拠点展開の負荷を下げる
  • 成果指標を技術指標だけでなく、現場KPI(停止時間、検査工数、手直し率)で管理する

技術課題を乗り越える進め方

  1. 損失の大きい工程を特定し、KPIを明確化する
  2. 必要データの定義と取得方法を決め、品質を担保する
  3. 小さく実装し、実運用で回しながら改善する
  4. 統合・セキュリティ・ガバナンスを並行で整備し、横展開できる形にする

まとめ:製造業DXの技術的課題は「つなぐ・守る・整える・回す」が要点

製造業DXの技術的課題は、技術の新しさよりも、既存資産との統合、セキュリティと可用性の両立、データ品質、運用定着の難しさに集中します。技術選定だけでなく、データと運用を含めた全体設計を行い、段階的にスケールできる仕組みを作ることが成功の条件です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 製造業DXで最初に整えるべき技術要素は何ですか?
A. まずはデータ取得と定義です。どの工程で何を測り、どのKPIに結びつけるかが決まらないと、AIや可視化を導入しても効果が出にくくなります。
Q2. PoCが量産展開につながらない原因は何ですか?
A. 実運用の条件(品種変更、設備差、ノイズ、保守、教育)をPoCに含めていないことが多いです。運用設計と、横展開の標準化を同時に進めることが重要です。
Q3. レガシー設備でもDXは可能ですか?
A. 可能です。全置換ではなく、ゲートウェイやミドルウェアでデータを取り出し、重要データから段階的に統合する方法が現実的です。
Q4. ITとOTのセキュリティは同じ考え方でよいですか?
A. 基本は共通ですが、OTは可用性が最優先で、停止できない制約があります。ゾーン分割、最小権限、監視、復旧手順など、止めないための設計が重要です。
Q5. データ品質を上げる近道はありますか?
A. 欠損率や入力誤りなどのデータ品質KPIを設定し、責任者(データスチュワード)を明確にすることが近道です。技術だけでなく運用の仕組みが効果を左右します。
Q6. クラウドとエッジはどう使い分けますか?
A. 低遅延が必要な制御や現場判断はエッジ、全社最適や横断分析はクラウドが向きます。通信断やセキュリティも考慮し、役割分担を設計します。

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