一般産業用機械製造業とは?
一般産業用機械製造業とは、工場や生産ラインで使用される機械や装置、そしてそれらの部品を製造する企業群を指します。これらの製品は、製造業、建設業、農業、鉱業、医療機器製造業、自動車製造業など多岐にわたる業界で使用されます。
この産業では、機械の設計、製造、テスト、メンテナンス、修理、部品供給までを一貫して行うことが一般的です。製品には、コンベア、圧縮機、発電機、ポンプ、バルブ、タービン、ロボットなどが含まれます。高度な技術と製造能力が求められ、競争が激しいため、効率的な生産プロセス、高品質な製品、顧客ニーズに合わせた製品開発能力、そして充実したサポートサービスの提供が重要となります。
日本の一般産業用機械製造業の現状
日本の一般産業用機械製造業は、国内製造業の中核を担う産業であり、製品の多様性・高い技術力・グローバル競争力を備えています。特に「ものづくり大国」としての日本を支える存在として、国内外から高く評価されています。以下では、技術動向、市場環境、業界の課題、今後の展望など多角的に解説します。
1. 高い技術力と信頼性
日本製の産業用機械は「精度」「耐久性」「安全性」において世界最高水準とされ、半導体製造装置、工作機械、産業用ロボットなどでは国際的なシェアを維持しています。たとえば、2023年時点で日本は世界の産業用ロボットの出荷台数で第2位(約27万台/年)を誇り、ファナックや安川電機などの企業は国際市場でもトップクラスのシェアを持ちます。
2. 国内市場の変化
国内需要は2020年を底に回復傾向にあり、特に以下の分野で機械需要が伸長しています。
- EV・電池関連設備:バッテリーパック製造装置、冷却制御装置などの需要が急拡大
- 食品・医薬関連ライン:衛生性・精密性を要求される包装・搬送機器の自動化が加速
- スマート工場化:IoT連携可能なロボット・センサー搭載機械の導入が進展
また、中小企業でも「労働力不足対策」として、自動機や省人化装置の導入が着実に広がってきています。
3. 海外市場と輸出依存
日本の一般産業用機械は、その約30〜40%を輸出に依存しています。主要輸出先は中国、米国、韓国、タイ、ドイツであり、特にアジア圏での生産拠点増加により、部品加工装置・ロボット・搬送装置の需要が高まっています。
また、円安傾向が続く中、日本製品の価格競争力が増し、2023年の輸出額は過去最高の6兆3,118億円(前年比+10.3%)を記録しました(財務省貿易統計)。
4. 技術課題と人材不足
一方で、以下のような課題も浮き彫りになっています。
- 高齢化による技術継承の断絶:現場技能者の定年退職に伴う人材流出
- 設計人材の不足:3D-CADやCAEを扱える若手技術者が慢性的に不足
- サイバーセキュリティリスク:スマート機器の普及による制御系ネットワークの脆弱性
これらへの対応として、各社はDX人材の育成、eラーニングの導入、AIによる生産支援システムの構築に乗り出しています。
5. 政策との連携と補助金活用
日本政府は「産業競争力強化法」や「グリーン成長戦略」に基づき、一般産業用機械製造業を支援対象とする補助金制度を多数整備しています。
- ものづくり補助金(上限1,250万円、補助率1/2または2/3)
- 事業再構築補助金(業態転換・設備導入費支援)
- 省エネ機器導入支援金(脱炭素機器の導入)
これらを活用し、最新鋭のマシニングセンター導入やスマートライン構築を進める中小企業が増加しています。
6. 今後の展望
日本の一般産業用機械製造業は、以下の方向で成長が見込まれます:
- スマートファクトリー関連市場の拡大
- 医薬・食品・環境機器など非製造系産業への展開
- 建設・農業・物流分野へのロボット・機械導入
2030年には国内市場規模30兆円、世界市場シェア10%以上を維持・拡大することが国としての目標に掲げられており、国策との連動もより一層強まると見られます。
主な製品とその用途
一般産業用機械製造業の主な製品には、以下のようなものがあります。
- プレス機:金属やプラスチックを加工するための機械で、自動車部品や家電製品の製造に使用されます。
- 工作機械:金属加工に使用される機械で、旋盤、フライス盤、ボール盤などがあります。
- コンベア:製品を運ぶための機械で、自動車工場や食品工場などで使用されます。
- ロボット:自動化された製造ラインに使用される機械で、車両組み立てやパッケージングなどに使用されます。
- 圧縮機:空気やガスを圧縮するための機械で、自動車や建設機械の動力源として使用されます。
- ポンプ:流体を移動するための機械で、水処理、石油化学工業、エネルギー生産などの分野で使用されます。
- 発電機:電力を生成するための機械で、発電所や船舶などで使用されます。
- タービン:流体の力を利用して回転運動を発生させる機械で、発電所や飛行機のエンジンなどに使用されます。
これらの製品は、製造業、建設業、農業、鉱業、医療機器製造業などの多様な業界で使用されています。
製造工程の流れ
一般産業用機械製造業の製造工程は、以下のような一般的な流れで行われます。
- 設計:顧客からの要望や製品仕様に基づいて、設計者が製品の設計図を作成します。
- 材料選定:設計図に基づいて、使用する材料や部品を選定します。
- 材料加工:選定した材料を、旋盤やフライス盤などの工作機械を使って加工します。
- 部品組み立て:加工された部品を組み合わせ、完成品の形にします。
- 検査:完成品を検査し、品質基準をクリアしているか確認します。
- 組み立て:部品を組み立て、最終製品を完成させます。
- 検査・調整:完成した製品を検査し、動作確認や調整を行います。
- 出荷:品質管理をクリアした製品を出荷し、顧客に納品します。
製造工程においては、品質管理や効率化に取り組み、製品の品質向上やコスト削減に努めています。
国内データ(最新情報)
日本の一般産業用機械製造業は、国内製造業の中でも基幹産業のひとつであり、その規模や影響力は年々拡大しています。以下に、2022年〜2024年時点の主要統計データをもとに、同業界の最新の市場動向を詳しく解説します。
製造品出荷額の推移(2020年〜2022年)
年次 | 出荷額(億円) | 前年比増減率 |
---|---|---|
2020年 | 20兆7,424 | -8.2% |
2021年 | 23兆1,896 | +11.8% |
2022年 | 25兆1,471 | +8.4% |
2020年は新型コロナウイルスの影響により大幅な落ち込みが見られましたが、2021年以降は設備投資の回復や半導体製造装置の需要増加により大きく回復しています。
業種別出荷額構成比(2022年)
- 工作機械:3兆7,748億円(構成比約15.0%)
- 圧縮機・ポンプ:2兆7,031億円(約10.7%)
- 自動機械:2兆1,101億円(約8.4%)
- ロボット関連:1兆3,064億円(約5.2%)
- 発電機・タービン:1兆1,804億円(約4.7%)
事業所数と従業者数
- 事業所数(2022年時点):約7,300拠点(従業員4人以上)
- 従業員数(2023年速報値):163,402人(前年比+2.1%)
- 平均従業員規模:1事業所あたり約22.3人
中小企業の比率が高い一方で、近年は大手企業によるデジタル・自動化投資も進行しています。
輸出入の動向
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年(速報値) |
---|---|---|---|
輸出額 | 5兆1,539億円 | 5兆7,204億円 | 6兆3,118億円 |
輸出主力先 | 中国、米国、韓国、タイ、ドイツ |
半導体装置、建設機械、産業用ロボットなどが輸出の柱となっており、特にアジア市場でのシェアが拡大しています。
主要トレンド・政策との連動
- スマートファクトリー対応:IoT連携機械・ロボット制御システムの需要増
- グリーン成長戦略:脱炭素機器(省エネモーターや高効率ポンプなど)の研究開発強化
- 補助金活用動向:ものづくり補助金・DX促進税制の活用が進む
今後の見通し
2024年以降、日本の一般産業用機械製造業は以下の成長要素によりさらなる拡大が期待されています:
- EVや次世代電池製造向け機械の需要増
- 中堅・中小企業における自動化ニーズの高まり
- ASEAN・インド市場への進出拡大
特に、産業ロボットや搬送装置、スマート保全技術を含む「インテリジェント機械」の需要が中長期的に成長ドライバーとなる見込みです。
主な企業とその特徴
日本の一般産業用機械製造業には、世界的にも高い評価を得ている企業が数多く存在します。それぞれの企業が独自の技術領域や強みを持ち、多様な産業分野に貢献しています。以下に、主な企業とその特色を紹介します。
1. 三菱重工業株式会社
重工業の総合メーカーとして、産業用機械から宇宙・防衛まで広範囲な分野をカバー。特にタービン、ボイラー、発電設備、空調機器などに強みを持ち、スマートプラント向けの機械システムも展開。
2. 株式会社ファナック(FANUC)
世界最大級の産業用ロボットメーカーであり、数値制御(NC)装置、ロボット、ロボマシンの3事業を展開。国内外の自動車産業や電子機器業界で圧倒的なシェアを誇る。
3. 株式会社日立製作所
情報通信システムやエネルギー機器とともに、産業用インフラ設備も展開。工作機械・圧縮機・制御装置など幅広い分野でグローバルに展開し、産業DXにも注力。
4. 株式会社安川電機
サーボモータやインバータ、産業用ロボットのパイオニア。溶接ロボット、搬送ロボットなどで世界的シェアを有し、FA(ファクトリーオートメーション)の高度化を推進している。
5. DMG森精機株式会社
日本の工作機械業界を代表する企業で、複合加工機やCNC旋盤、マシニングセンタなどを製造。ドイツのDMG社との提携により、グローバル市場での競争力を強化。
6. 株式会社IHI
タービン、コンプレッサ、ボイラー、建設機械などの重機部門に強みを持つ。航空宇宙やインフラ向けの機械装置にも注力しており、エネルギー効率化技術にも定評がある。
7. 株式会社オークマ
CNC制御技術と工作機械に特化した日本のリーディングカンパニー。マシニングセンタ、CNC旋盤、5軸加工機などにおいて高精度・高剛性を追求し、IoT対応型の工場自動化ソリューションも展開。
8. 株式会社アマダ
板金加工機械の世界的メーカー。レーザー加工機、プレスブレーキ、タレットパンチプレスなどで高い市場占有率を持ち、自動化・ロボット対応にも積極的。
9. 株式会社クボタ
農業機械のイメージが強いが、産業用エンジンやポンプ、上下水道向けの産業機器分野にも強みを発揮。グローバル市場でのインフラ支援に大きく貢献。
10. 株式会社ジェイテクト
トヨタグループに属し、工作機械、ベアリング、ステアリングシステムを中核とする。EV関連設備や高精度加工ソリューションへの需要増を背景に、存在感を高めている。
その他注目企業
- 株式会社東芝インフラシステムズ(社会インフラ・産業機器)
- ダイキン工業株式会社(産業用空調機器)
- THK株式会社(直動案内機器・精密部品)
- 株式会社ニデック(旧:日本電産、精密モータ・ロボット機器)
- オムロン株式会社(センサ・制御機器・自動化システム)
これらの企業は、工作機械、圧縮機・ポンプ、発電機、自動機械、ロボット、エンジニアリング、機器メンテナンス・修理、産業用ロボットシステムなど、様々な分野で製品・サービスを提供しています。