亜鉛(あえん)

原材料の種類

亜鉛(Zn)は、自然界では単体で存在せず、主に亜鉛鉱石(閃亜鉛鉱:ZnS)として鉱山から採掘されます。その他に、スズ、鉛、銅、銀などの多金属鉱床中にも含まれることが多く、亜鉛は副産物としても回収されます。主な原料鉱石としては、閃亜鉛鉱、菱亜鉛鉱、異極鉱などが挙げられます。

生産方法や工程

亜鉛の製造は、鉱石の採掘から精錬、精製に至るまで複数のステップを経て行われます。代表的な工程は以下の通りです:

  1. 鉱石の粉砕・浮選:採掘された鉱石を粉砕し、有用鉱物を選別。
  2. 焙焼:浮選濃縮された鉱石を高温で焼成し、酸化亜鉛(ZnO)に転換。
  3. 浸出:酸性溶液を使って酸化亜鉛を溶解。
  4. 精製:不純物を沈殿または溶媒抽出で除去。
  5. 電気精錬(電解):電解槽で金属亜鉛を析出させ、99.9%以上の高純度亜鉛を得る。

一部の製造ラインでは水素還元法も用いられますが、近年では電気精錬が主流です。

亜鉛の特徴

亜鉛は銀白色の金属で、以下のような優れた特性を持ちます:

  • 高い耐食性:酸化皮膜を形成し、金属表面を保護。
  • 優れた延性と可塑性:低温でも脆性になりにくく加工性が高い。
  • メッキ性に優れる:鉄鋼に対して電気化学的に犠牲防食作用を発揮。
  • 導電性・熱伝導性が良好。
  • 環境に対して比較的安定で毒性が低い。

用途

製造業における亜鉛の主要用途は以下の通りです:

  • 鉄鋼の防錆用メッキ(溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき)
  • 真鍮、亜鉛合金(ダイカスト)などの合金成分
  • 乾電池(マンガン乾電池やアルカリ電池の負極材)
  • 建材(屋根材、外壁材、雨どいなど)
  • 自動車部品(シャーシ部、燃料タンク、シート構造材)
  • 医薬品、化粧品、サプリメントの微量成分
  • 農薬や肥料の微量元素として

費用や価格の動向

亜鉛の価格は、ロンドン金属取引所(LME)で取引される金属先物価格に連動しています。価格動向は以下の要因で変動します:

  • 中国を中心とする建設・鉄鋼需要
  • 亜鉛鉱山の操業状況(新規開発・操業停止)
  • 為替レート(米ドル建て)
  • 代替材料との競合(アルミニウムなど)

近年では、2021〜2022年にかけて供給制約やエネルギーコスト上昇により一時的に価格が高騰しました。

生産量や需要の推移

世界の亜鉛鉱石生産量は年間約1,200万〜1,300万トン前後で推移しており、精製亜鉛の生産は約1,400万トン超。上位生産国は以下の通りです:

国名 精製亜鉛生産量(2023年)
中国 約610万トン
ペルー 約130万トン
オーストラリア 約120万トン
アメリカ 約80万トン
カナダ 約60万トン

世界需要は主に建設・鉄鋼産業の動向に依存しており、都市化・インフラ投資が活発な地域で需要が増加しています。

日本の供給構造と貿易動向

日本の亜鉛精錬能力は限られており、国内供給の多くは輸入に依存しています。主な輸入元は韓国、中国、オーストラリアなどで、リサイクル原料の活用も進んでいます。一方、国内企業による高品質なめっき製品は、中国や台湾、東南アジア向けに輸出されています。

環境負荷とリサイクル

亜鉛の生産には、高温処理や電力を大量に必要とするため、CO2排出や鉱滓による環境負荷が懸念されます。特に精錬過程で生じる硫酸やダスト処理が課題となります。

しかし、亜鉛はリサイクル効率が非常に高く、スクラップやメッキ鋼板からの回収が可能です。欧州では、亜鉛のリサイクル率は70%を超える国もあり、今後さらに重要性が増すと予測されています。

品質管理と品質基準

製造業で使用される亜鉛製品には、以下の品質管理項目が求められます:

  • 純度:99.995%以上の高純度が一般的(High Grade Zinc)
  • 粒度や結晶構造の均一性
  • 酸化被膜の制御や厚さ管理
  • めっき厚さ、密着性、導電性の評価

JIS(日本産業規格)、ISO(国際標準化機構)などで品質基準が規定されており、輸出入や公共工事では準拠が必須です。

設計・加工における制約と留意点

亜鉛は融点が419.5℃と比較的低いため、鋳造や合金化に適しています。ただし、以下の点に注意が必要です:

  • 高温環境下では変形・酸化しやすい
  • 溶接には適さないため、機械的接合を多用
  • 薄膜メッキでは経年劣化による色変化に配慮が必要

また、鋳造製品では収縮率の制御やガス抜きなど、工程設計における技術的配慮が求められます。

まとめ

亜鉛は、鉄鋼の防錆や合金製品など、製造業における多くの分野で不可欠な素材です。耐食性・加工性・経済性のバランスが良く、かつリサイクル性にも優れているため、持続可能な産業材料として注目されています。今後は、グリーン製造技術や高度な品質制御の導入を通じて、より高機能で環境負荷の少ない亜鉛活用が求められていくでしょう。

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