タクトタイム

製造業の現場では、生産性を高め、効率的な生産体制を築くために様々な指標が用いられます。その中でも特に重要なのが「タクトタイム」「サイクルタイム」「リードタイム」といった時間に関する概念です。これらは混同されがちですが、それぞれの意味や関係性を正しく理解することで、工場の生産能力を正確に把握し、過剰在庫や欠品、納期遅延といった事態を防ぐことができます。

本記事では、これらの中でも特に生産の基準となる「タクトタイム」に焦点を当て、その意味、計算方法、重要性、そしてサイクルタイムやリードタイムとの関係性について詳しく解説します。

タクトタイム(Takt Time)とは?

タクトタイム(TT:Takt Time)とは、顧客からの注文に応じて、1つの製品を製造するためにかける時間の目安(目標値)を指します。ドイツ語の「タクト(takt)」が拍子や指揮棒を意味することに由来し、「ピッチタイム」とも呼ばれます。まるで指揮者が生産のリズムを導くように、製造ライン全体で目指すべき生産ペースを定める大切な基準値となります。

顧客から「いつまでに、いくつ製品を作るか」という要望を受けた際に、その納期と必要生産数を達成するために「製品1個あたりどれくらいの時間をかけて生産すればよいか」を算出するものです。タクトタイムが短ければ短いほど、稼働時間に対してより多くの製品を生産できることになります。

タクトタイムの計算方法

タクトタイムは以下の計算式で求められます。

タクトタイム = 1日の定時稼働時間 ÷ 1日の生産必要数

計算例:
1日の稼働時間が8時間(480分)で、1日に1,000個の製品を生産する必要がある場合。
タクトタイム = 480分 ÷ 1,000個 = 0.48分/個 = 28.8秒/個

別の例として、稼働時間8時間(休憩1時間含むため定時稼働時間7時間)の工場で、製品Aを1ヶ月後に6,000個納品する場合(月間稼働日25日と仮定)。
1日の生産必要数 = 6,000個 ÷ 25日 = 240個/日
タクトタイム = 420分 ÷ 240個 = 1.75分/個 = 105秒/個

タクトタイムが製造業で重要な理由

  1. 生産のリズムを決定する基準値
    目標となる生産ペースを明確にし、現場の作業者がそのペースを意識することで、一定以上の作業効率を維持できます。
  2. 標準作業の重要な構成要素
    トヨタ生産方式において標準作業は「タクトタイム」「作業順序」「標準手持ち」で構成されており、タクトタイムが中核となります。
  3. 過剰生産の防止と作業ペースの標準化
    タクトタイムを設定することで、必要な分だけ生産する体制が整い、不要な在庫を抱えることを防ぎます。
  4. 各立場の従業員にとってのメリット
    • 作業者:作業ペースを意識することで適度な緊張感が生まれ、マンネリ化を防止。
    • リーダー:ムリ・ムラ・ムダを削減し、理想的なモノの流れを目指せる。
    • 管理者:人的・設備リソースを最適化し、全体最適な生産管理が可能。

タクトタイムとサイクルタイム・リードタイムの違いと関係性

用語 意味・定義 計算式 視点
タクトタイム 顧客の必要生産数に基づく目標ペース 定時稼働時間 ÷ 生産必要数 顧客目線
サイクルタイム 1製品の実際の製造時間(実測値) 定時稼働時間 ÷ 実際の生産数 生産側目線
リードタイム 発注から納品までの全工程時間 工程開始~終了の合計時間 全体工程目線

サイクルタイムとの関係性

  • サイクルタイム = タクトタイム:理想的な生産状況
  • サイクルタイム > タクトタイム:生産が遅れている。ボトルネック解消が必要。
  • サイクルタイム < タクトタイム:過剰生産状態。在庫管理に注意が必要。

リードタイムとの関係性

リードタイムはタクトタイムよりも広い概念であり、製造工程以外の時間も含まれます。リードタイム短縮は、対応力・納期精度の向上に直結します。

タクトタイム設定における3つのポイント

  1. 需要予測の精度向上:注文数の誤認を防ぎ、適正な生産数を算出する。
  2. 余力のバッファ設計:トラブル発生時に備え、無理のないペースを設計。
  3. 見直しルールの策定:定期的に市場動向に応じてタクトタイムを再計算する。

タクトタイムの最適化とシステム活用

リアルタイムでの生産データの可視化や負荷分散、設備の最適配置など、生産管理システムの導入はタクトタイム最適化に効果的です。生産の現場情報を集約し、即時の意思決定とボトルネック解消を支援します。

まとめ

タクトタイムは、製造業における生産の基準リズムであり、顧客ニーズに応じた生産活動を行うための出発点です。サイクルタイムとのバランス、リードタイムの短縮、そして現場への正しい反映が、効率的で安定した生産体制の構築につながります。デジタル技術の活用と継続的な改善こそが、タクトタイムを最大限に活かす鍵となります。

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